2023.02.26

虫に託すか風に託すかあるいは

東京の都心に近い自然公園へ、ひと足早く春の訪れを感じさせるものを探しに行って来ました。

と思いつつ最初に目に飛び込んで来たのは巨大なバショウ!

この冬の「最強寒波」も相まって見事な枯れっぷりです。バショウは日本国内で自生する最大級の「草」です。幹のように見える部分は堅くなった葉の鞘が交互に重なり合った「偽茎」と呼ばれるもので、葉の一部です。

冬に外気に露出している葉は枯れてしまいますが春にその偽茎の中心部から再び新芽を伸ばします。

前年の夏に花を咲かせた跡も見られます。

実が成っていた形跡もありました。バナナと同じ付き方ですが、バナナと比べバショウの実は種が大きく実も綿状。そしてタンニンが多く含まれているため渋みが強く食用には不適です。

池のミズカンナの枯れっぷりも見事!ただこちらでは新芽が出始めています。この高さ3メートルに達するミズカンナも「草」です。外気に触れていない生きた部分からたくさんの新芽がこれからニョキニョキ出て来るのでしょう。

興味深い種を見つけました。硬い半透明な飴色の殻のなかに種が入っていて、振るとカラカラ音がします。

これはムクロジの実で、殻は水に浸すと良質の泡が立ち、洗剤と使われ、中の黒くて硬い実は数珠や厄除け、正月遊びの羽根突きの玉として使われ、民衆の文化と密接していたようです。

光を通すと琥珀色の輝きです。

 

そしてようやく早春の花に出会いました。

マンサクです。マンサクは他の木々の芽吹きさえも始まらない早春にいち早く咲くことから「まず咲く」「真っ先」が語源になっています。またこの花が多数咲くとその年は豊作になるという「万年豊作」にも由来しているそうです。

マンサクには神秘的な力が宿っていると言われていることから「神秘」や「魔力」といった花言葉があり、また花はパッとはじけたように見えることから「ひらめき」というのもあります。

ところで植物が花を咲かせる理由は花粉を別の花へ届けてもらうため、目立つ色彩と甘い蜜で「花粉運び屋」としての虫を呼び寄せます。

ただまだ「冬」と表現してもいいくらいのこの季節、虫はほとんどいません。この時期に咲くツバキ、サザンカは大振りの花びらと大量の蜜で花粉運びを「鳥」に託しています。

ではマンサクの花は……ツバキ、サザンカに比べると小さく地味です。

マンサクは花粉運びを「風」に託しています。

こう表現すると何か「カッコイイ!」「やはり神秘的だ」なんて思ってしまいますが、この風に花粉を運ばせる仲間にはみなさんおなじみの「スギ花粉」「ヒノキ花粉」があります。

急に現実的になってしまいました。

そして冒頭の早咲きの桜、カワヅザクラの登場です!

そろそろ見頃になっています。

カワヅザクラは静岡県河津町で発見され、今では国内でもトップクラスの桜の名所となっています。

桜の花粉の媒介者となる虫の活動が始まるよりも、大幅に早く咲くと子孫を残せないため、極端な早咲きは淘汰されるものです。

時が立てば他の桜と同じ時期に咲くようになっているかも知れません。

ただこの極端な早咲きこそがカワヅザクラ!

現代ではカワヅザクラは人の手で接ぎ木などで増殖させているそうです。

いわばカワヅザクラは虫でも鳥でも風でもなく、人に特別気に入ってもらうことで子孫繁栄を「人」に託したのでしょう。

 

埼玉日高農園、サトウ