2025.11.03
あまりにも美味いものは臭いで隠せ
厳しすぎる夏もようやく終わりを告げ、朝晩に寒さを感じるようになりました。
都心でももう少し季節が進めば紅葉の時期になります。

都心の大通りや公園でも秋色を感じさせる樹木にイチョウがあります。樹木全体が黄色に染まるのは見事な光景ですね。
その少し前には、銀杏が場所によりたくさん落下しています。あの独特な匂いが辺りに立ち込み、あまりこの樹の周りをウロウロするするのは「銀杏取り」を目的にしている人くらいでしょうか。
踏んだらもうタイヘン。人びとは気持ち鼻をつまみながら、速やかにこの銀杏地帯を通過して行きます。
この強烈な独特な臭いは、蒸れた足の臭い、排泄物の臭い、腐ったバターの臭いなどと形容されていて、その成分(テナント酸、酪酸)は種子の皮に含まれています。
酪酸は実際、人の嘔吐物と同じ成分なのだそうです。
ところが中の実はすこぶる美味い。
で、このイチョウはなぜここまで臭くすることを選んだのか?
前回は地中に潜ることを選んだ落花生のお話でしたが、今回は「臭さ」を選んだイチョウです。

どんな動物にでも好んで食べてもらったら食べ尽くされてしまう。ならば、全地球上を支配している巨大な動物だけにターゲットを絞ろう、とイチョウが選んだのがなんと「恐竜」でした!
他の動物が臭さのあまり手を出しませんでしたが、恐竜だけは気にせず好んで食べ、その種子は全世界へ運ばれ大繁殖しました。イチョウの作戦は大成功です。
それが2億年前の話し。
ところが6600万年前に恐竜が絶滅すると、恐竜に頼っていたイチョウも急激に減少します。
他の動物には臭さによって見向きもされないイチョウは大ピンチです。その生息域は中国四川省の山奥のみに縮小されました。そういう理由でなんと「野生のイチョウ」は今はここだけなのです。
あとは世界中の全てのイチョウは人間によって植えられたものだったのです。

さすが「生きた化石」と呼ばれるほどのイチョウの人生、もの凄い歴史ですね。
(写真/文 サトウ)