2021.07.25
個性あふれる山の花
先日は東京最奥部地域のとある山域を歩いてきました。ブナの原生林が残るこの山域は標高1000mから1600m。ここまで上がると街なかは35度の猛暑日でも大変涼しく心地好い風が吹いています。今回はこの山歩きで出会った「山の夏の花」を紹介したいと思います。
まもなく開花するコアジサイです。普通のアジサイと大きく異なる点は装飾花と呼ばれる赤や紫色のガクがないこと。派手さはありませんがハダカのアジサイのようでとても可愛らしいです。コアジサイは繁殖のため虫を誘う必要があるので、花から甘い香りを出す、というのも特徴です。
標高1600m程の山頂付近ではノリウツギが白い花を咲かせていました。ノリウツギはアジサイの仲間で、山地に生息するものはノリウツギの原種で高さ5mほどの樹木になります。市場に出回っている人気の「ピラミッドアジサイ」と呼ばれるものはこの木が品種改良されたものです。原種の花も「ピラミッド」のように円錐状に花をつけています。花は咲き始めから枯れるまでゆっくり色彩を変えるため、「臨機応変」という花言葉が付いています。またノリウツギは林・草原・岩礫地・湿原どこでも自生できる自在性から「臨機応変」というのも考えられますね。深い山を歩いていてこういった原種の植物に出会えると嬉しく思います。
一見キノコのように見えますがれっきとした花です!ギンリョウソウです。銀竜草と漢字で表記します。別名、ユウレイタケ! 一般的な植物のように緑色の葉を持ち光合成をして栄養をつくるのを止めたためその色素を持たない植物です。ではどのように栄養を取るのか?それはキノコに寄生してそこから栄養を取っています。普段は地中で生息していますが、花期の約2か月だけ地上に顔を出します。このギンリュソウ、ひと昔前は枯れた樹木や死んだ動物から生える「腐生植物」に分類されていましたが、研究が進んで生きた菌類に寄生していることがわかると「菌従属栄養植物」に分類されるようになったそうです。なかなかのユウレイぶりですね。さらに進んだ研究によるとこの花、野生のゴキブリが好んで食べに来るとか……。
「私にさわらないで!」。それがこの花の花言葉です。花の色・カタチだけを見るとランのようです。が、日本の在来種。キツリフネといいます。ちょっと触れただけで種子がはじけ飛ぶことから、その花言葉になったそうです。
この時期はやはりアジサイの仲間が花を咲かせています。遠目で見ると、まあいかにもアジサイっぽいかんじではありますが……
これはアジサイっぽくはない!!ギンバイソウといってウメに似ていることからその名が付きました。この花は蕾ができてから咲くまで2か月以上かかるそうです。「おさえられない高まる期待」なんていう花言葉だったらぴったりだと思いましたが、「平和」「愛のささやき」でした。分類学的にはユキノシタ科にもなっているそうです。
純粋な「ユキノシタ」はこれです。ユキノシタは古来から薬草として重宝されてきました。切り傷・火傷・扁桃炎・中耳炎・解熱・咳・痔・心臓病・腎臓病に効果があるとか。こういった幽玄なる深い山の岩肌に人知れず咲いていると、いかにも効果がありそうです。また葉の天ぷら、おひたしは通常の食用として大変美味だとか!
ホツツジ。これは食べられません!全てにアンドロメドトキシンなどの毒を含んでいます。体内に入ると痙攣・嘔吐・頭痛眩暈……。そしてこの花から採ってできた蜂蜜から中毒になった例も多数あるそうです。
最後は「王様」ヤマユリです!ヤマユリは園芸品種のユリにとって最も重要な原種とされ、近年の交配・配合を逆に辿ってゆくとそのほとんどがこのヤマユリに辿り着くそうです。山のなかに自生しているヤマユリはまさに「王様」そのもの。その存在感は圧倒的です。
ヤマユリくらいの花はすぐに気づきますが、山のなかの花は小さく繊細なものが多く、意識して歩いていないと見過ごしてしまう花も少なくありません。普段は花屋や巨大な市場で色の濃い鮮やかな花を扱っているため、その地味さやはかなさに魅力を感じてしまう山歩きでした。
(埼玉日高農園 サトウ)